第50回日本臨床分子形態学会総会・学術集会会長 北里大学薬学部臨床薬学研究・教育センター病態解析学准教授
中村正彦
このたび日本臨床分子形態学会の栄えある第50回総会・学術集会を主催させていただきましたことに深謝いたします。
副会長の寺田総一郎先生、事務局長の横森弘昭先生、プログラム委員長の東俊文先生と力を 合わせて準備にあたりましたが、会場設定、演題募集、プログラム設定、特別講演演者の決定、募金活動、抄録作成と直前の数ヶ月はあっという間に過ぎて行き、学会も嵐のように過ぎたと いうのが実感です。無事終了できたのはご協力、ご支援いただいた方々のおかげと感じており ます。また、開催前日の9月6日午前3時に、北海道胆振東部地震にみまわれ、北海道地区か らの座長、演題発表者は上京できず、たまたま北海道に出張されていた先生も御欠席となりま したが、皆様ご無事との連絡をいただき、安堵しました。
今回は第50回にあたることから、向坂 彰太郎理事長、片渕  秀隆副理事長とご相談し大先輩の谷川久一先生、畑俊夫先生、円山英昭先生による今までのこの学会に関する鼎談をお願いしました。また、理事の先生方に今後の学会のあり方についての貴重なご意見をいただきました。突然の指名にも関わらず、お話いただきありがとうございました。
臨床電子顕微鏡学会時代を含め、北里大学としてはこの学会ははじめての主催であり、また母校の慶應義塾大学としては第14回(1982年)を病理学教室の坂口弘先生が旧日本都市センターで開催されて以来、36年ぶり2回目となりました。その経緯もあり、坂口先生の何代目かの後任となります金井弥栄教授に「病理組織検体のオミックス解析に見るがんの多様 性」と題する特別講演をお願いしました。検体保存の標準化によるデータの信頼性向上など今後のますますの展開が期待される内容でした。また、開催いたしました白金地区は、北里柴三郎が福沢諭吉から譲り受け、1893年(明治26 年)9月、日本最初の結核サナトリウム「土筆ヶ岡養生園」を設立した場所であり、北里大学の現在の本部もここにあります。2015年のノーベル医学生理学賞を受賞された大村智栄誉教授もこのキャンパス内におられ、学会はその受賞を記念して改称された大村記念ホールを中心に開催いたしました。また、一番弟子の供田洋先生に「動物細胞内中性脂質蓄積を指標とした新規創薬素材の探索」と題する講演をしていただきました。座長の小路武彦先生と大学学部の同期という偶然にも驚きました。
今回のメインテーマは、北里大学学祖の北里柴三郎博士の言葉であり、大学のモットーである“Sophia kai Ergon 叡智と実践“を取り上げさせていただきました。このギリシャ語の由来はソクラテスからともいわれ、その言葉のなかに「人間の美徳はすべてその実践と経験に よっておのずと増え、強まるのである  」という名言があり、北里博士の「学者の知識はどんなに革新的で高尚なものであっても、それが一般社会に還元されなければ何の役にもたたない」という持論と一致したのではないかと、考えております。 
特別講演は、前述の二名に加え、読売新聞医療部 館林牧子さんと北里大学名誉教授の檀原宏文先生にお願いしました。館林さんの「平成年間の医療記事の移り変わり」と題する講演からは、この30年間の医療を取り巻く環境の変遷、とくに社会情勢、国の財政との関係が深まってきていることが納得できました。また、また、ご専門の微生物学に加え、北里柴三郎記念館においてその生涯を研究され、故郷の小国町から熊本まで徒歩で辿られたご経験を持つ檀原宏文先生に、その旅を経て得られた北里柴三郎論をお願いしました。司会の片渕  秀隆先生のお話にもありましたように、今まで知らなかった青年期の北里柴三郎の葛藤、さらにそれが飛躍へとつながったことがわかりました。
シンポジウムとしては、ゲノムと肝臓の二つを取り上げました。それぞれ、さまざまな観点からの演題が発表されました。特に病理診断とAIとの関連が注目されました。ワークショップは、病理および婦人科領域のテーマを取り上げました。いずれも面白い演題が集まっており、活発な議論が交わされました。
新基軸として、 Help me cornerをもうけました。まだ初回であるため、認知度が低く、今後の展開が期待されました。また、分野横断的テーマによる企画や国際化なども今後の学会での採択ということになりました。
この学会は、学際性がその特徴とされます。辞書によれば、“二つ以上の科学の境界領域  にあること。いくつかの分野にまたがり関連することで、 interdisciplinary の訳語として、「国際」にならって一九七〇年ごろ造られた語”とされます。本会のさまざまな領域の研究者が一堂に集い、共通する真理をもとめて、討議するという主旨と確かに合致すると思います。
今後のますますの発展を祈念いたします。