
片渕秀隆前理事長の後任として、日本臨床分子形態学会の第6代理事長を拝命いたしました。私は1991年9月に本会に入会し、これまで、評議員、会計監事、理事、学術委員、長期計画委員、編集委員、編集委員長(Medical Molecular Morphology、 Editor-in-Chief)、第49回学術集会(岐阜)会長を務めさせていただきました。専攻は解剖学で、形態形成に関わるシグナル伝達系の分子形態学的研究を行っています。本会の、基礎と臨床がブレンドした雰囲気が好きで、毎年、自分自身が筆頭演者として発表を続けて参りました。故森道夫理事長に「あなたの研究はこの学会にぴったりですね。」と言っていただけたことが、私の本会に対する思い入れの原点です。理事長の3年間の任期を、他の理事・監事の先生方と協力して、精一杯務めさせていただきます。
本会は1968(昭和43)年に、日本臨床電子顕微鏡学会としてスタートしました。その後、形態学研究の多様化にともない、2004(平成16)年に日本臨床分子形態学会と学会名を変えました。しかし、形態学を主たる研究法として病気の本態に迫ろうという学会のバックボーンに揺るぎはありませんでした。最近は、研究手法の更なる多様化を柔軟に受け止め、生化学、分子生物学、分子遺伝学から形態学に参入してくる研究者も本学会で活躍されています。
本会は、基礎と臨床が一体となり、分子形態学を駆使して病気を研究するユニークな学会です。医学の多様な分野の研究者が集まる本学会ほど、時代のキーワードである“多様性diversity”に合致した学会は、他に類を見ません。私は本学会のこの特質を堅持し、アカデミズム重視の学会運営を進めて参りたいと思います。具体的には、①英文機関誌MMMの質と会員サービスの更なる向上、②コロナ禍の遷延を見越した学術集会の運営方法の確立、③理事会、評議員会、各委員会における基礎と臨床のバランスと個人の能力を重視した人事配置、④質素で堅実な財務運営、を3年間の基本方針といたします。
本会の学術活動の2本柱は、「英文学会誌Medical Molecular Morphologyの刊行」と「全国学術集会の開催」です。MMMのインパクトファクターは2019年にこれまでで最高の2.429となりました。冊子体をなくしてオンラインのみとなる学会誌が多い中で、本会が冊子体を存続させつつ、かつ、インパクトファクターを向上させていることは、ひとえにMMMに良質の論文を投稿してくださる会員諸氏の努力の賜物です。
2020年はコロナ感染拡大で、どの学会も学術集会の開催に苦労いたしました。今後コロナ禍がどう推移するかは予想できませんが、これを人類に課せられた未曽有の試練であると認識し、その中で生き残る術を見つけ出す努力をすべきです。2021年は名古屋で永田浩一会長が、2022年は長崎で北岡隆会長が全国学術集会を主催されます。実行委員会だけでなく、全会員の英知を結集して困難を乗り越え、新しい学術集会のあり方を確立して参りましょう。
学会創設以来半世紀、日本臨床分子形態学会は常に時代に適応し、変化を受け入れて参りました。これからも多様性に富んだ持続可能な体質を維持しつつ、“病気の分子形態学”を追究しつづける基本姿勢を堅持したいと思います。全会員の皆様のご支援とご協力を、何卒よろしくお願い申し上げます。
2021年2月8日